雑談と食事は人との距離を詰める手段らしい。
俺はそのどちらも苦手だ。
この二つはしばしばセットになる。
俺は人との距離を詰めたことがない、というと語弊はあるが、少なくとも自分で詰めようとしてことはないかもしれない。
食事は人から誘われたら行くし、話は人から聞き出すことならそこそこ苦手意識なくできる。傾聴のテクニックは本を読んで実践して鍛えた。
とはいえ誰に対してもいつでも上手くできるということでもない。上手くいかない人もいる。だから俺の雑談力は、全くの0点ではないが赤点ギリというところか。
自分がどう思われるか気になるという自意識過剰かつナイーヴなことではもう悩まなくなったが、いかんせんネタがない。
興味があるものと無いものの区別が激し過ぎて、中間のものが存在しない。
中間のものとは、一応知ってるし多少は好きなところもあり、ちょっと触れたことがあって、(あるいは惰性で触れていて)印象が残っており、語ることはまあできる、という具合のものだ。
具体的には、流行りの音楽やスポーツ、ドラマ、芸能人、飯や酒あたりか。若い人同士なら異性や服、お笑いあたりも。ゲスな話がOKな場所なら風俗パチンコ競馬が加わる。
多少懐具合が良い人の集まる場所なら時計やゴルフ、車なんかの話になるかもしれない。お上りさん同士ならマウンティングも行われるだろう。独身貴族ならスパイスとかキャンプの話とかをするんだろうか。
俺はこういうことに通り一遍、全く興味がなく、一応存在は知ってはいてもどう表現したらいいか、言語化ができないものが多い。だから雑談を振られても困ってしまう。
その代わり、人の話は興味を持って聞くし、質問で掘り下げることはする。あまり一方的に相手に喋らせても疲れさせてしまうので適度に自分の話も挟む。まああんまり続かないし、上手くないとは思う。
一般的に雑談と食事、あとカラオケや麻雀やゴルフなんかは、比較的新しく会った人同士が親睦を深めるために行われるようだ。
だが俺にとっては順序が逆で、これらは全てある程度親密になってから行きたいものだ。
安心して自分が居てもいいと思える空間があってこそ行くところだと思う。でないと落ち着かない気分で終わる。
じゃあどうやってその安心感を感じるのか、どうやってジャッジするのか、というと職場なら仕事、学校なら授業や部活で人と同じことをしつつ、この人達とならまあ、と思えたところでようやく行くという具合だ。
雑談で距離を詰めたい人は、仕事では仕事モードだから自分の素は出せていない、だから関係ない雑談である程度自分を晒して仲良くなるのだ、ということを考えているのかもしれない。
その人にとっては、俺のような人間は中々自分を見せたがらないタイプ、とニュートラルに捉えてくれていればまだマシだ。大抵は良い印象は抱かれない。
不思議とか変人とか、酷ければ、陰で陰キャとか人に言えない秘密を隠してるとかプライドが高いとか勝手にレッテルを貼って、雑談仲間同士で悪く言うこともある。そうなるとお互いに仲良くするメリットは益々なくなる。
放っておいてくれるくらいが丁度いいのだ。